| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-226
表現型可塑性は、生物が生物的、非生物的な環境に依存して異なる表現型を示す現象である。アブラムシの中には、表現型可塑性により防衛を専門に行い不妊の兵隊と呼ばれる個体を産出するといった社会性を持つものがいる。この兵隊は、捕食者からコロニーを防衛することでコロニーを構成する他の個体の適応度に貢献する。その一方で、兵隊は不妊であるため、その産出は母虫にとって大きなコストとなる。したがって、捕食リスクが時・空間的に変異する場合、アブラムシの母虫は、兵隊の数が最適になるよう可塑的にコントロールしていることが期待される。しかし、このような兵隊の「量」ではなく、兵隊の「質」、すなわち兵隊の捕食者を攻撃する際に用いる防衛形態や、捕食者に対する攻撃性も母虫はコントロールしている可能性がある。実際に、不妊の兵隊を産出するササコナフキツノアブラムシの野生集団では、兵隊の体全体のサイズや、他の形態形質のサイズに対する防衛時に用いる角や前脚の相対的な長さと捕食リスクに正の相関関係があることがわかっている。そこで、本発表では、ササコナフキツノアブラムシを用いて、兵隊の体全体のサイズの変異が表現型可塑性で生じていることを同じ遺伝的背景を持つ複数のコロニーを用いて検証した。その結果、兵隊の体全体のサイズ変異が表現型可塑性によって生じていることが明らかになった。さらに、同じ遺伝的背景を持つ兵隊に刺激を与え、刺激に対する行動を観察した。その結果、同じ遺伝的背景を持つにもかかわらず兵隊の攻撃性に変異が存在することがわかった。さらに、この防衛行動の変異は、兵隊の角や前脚の他の形態形質のサイズに対する相対的な長さと正の相関関係があった。このことから、アブラムシの母虫は兵隊の防衛形態である角や前脚だけでなく、攻撃性も同時に強化していることが示唆された。