| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-232
定住性であまり跳躍しないヒキガエルは、移動分散能力も低く、大部分の個体が毎回同じ池(自分の生まれた池)で繁殖するといわれている。このような生態に相まって、首都圏のヒキガエル個体群では、個体数の減少に伴う近交弱勢が個体群の絶滅へと拍車を掛けていることが懸念される。一方で、東日本に位置する首都圏は、本来、東北日本亜種であるアズマヒキガエル(Bufo j. formous)の分布域であるにもかかわらず、近年、西南日本亜種であるニホンヒキガエル(Bufo j. japonicus)の人為的移入が示唆されてきた。本研究では、首都圏、特に東京都内に注目して、日本産ヒキガエルについて、個体群内の遺伝的多様性を量る目的で、ミトコンドリアDNA と核DNAのマイクロサテライトという2種類の分子マーカーを併用して、解析を行っている。
これまで、首都圏8か所でサンプリングを行い、ミトコンドリアDNAのcytb領域を用いて、分子系統解析を行った結果、首都圏には7系統(母系)が存在し、そのうち3系統は、本来西日本に自然分布するニホンヒキガエル(Bufo j. japonicus)に属すハプロタイプであった。同じ繁殖池由来のサンプルから複数の母系が検出されるなど、首都圏内では個体群内の遺伝的多様性が非常に高く、移入した西系統を取り除いた東系統だけで考慮しても地方における個体群間のそれより高い、という結果が得られた。また、これまでのマイクロサテライト7種の遺伝子座を用いた解析結果からは、近交弱勢の指標となる、個体群ごとのハーディ-ワインバーグ平衡からのずれにおいては、有意な結果は示されなかった。加えて、西系統と東系統で特有の対立遺伝子がみられる遺伝子座の解析結果から、2亜種間での交雑も浮かび上がってきた。