| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-237
野外での生物の分布には様々なパターンが存在する。そのなかでも『群れ』の形成による生物の空間的な集中パターンは広く観察され、その形成メカニズムとともに多くの研究がなされてきた。生物が群れをつくる理由には採餌や繁殖、防衛など様々な要因があるが、Higashi and Yamamura (1993)は、こうした要因をグループの個体同士の協力による利益と競争に伴うコストとの間のコンフリクトとして包括的に取り扱い、グループの最適サイズを説明するモデルを提案した。このモデルでは単一の群れの最適サイズを説明しているが、実際の生物の個体群ではハビタット内にさまざまなサイズの複数のグループをつくって分布していることも多い。
その一例として、本研究ではトビケラ幼虫に着目した。トビケラ幼虫は川床の石表面の付着藻類を餌とするが、付着藻類の厚さによって分布様式が異なることが観察されている。彼らは藻類マットが厚いときには単独での採餌が困難で集合して採餌をする必要があるが、同時に個体密度が増加すると一個体の獲得餌量が減少してしまう。我々は、こうした餌資源の『利用しやすさ』にともなう協力と競争のコンフリクトについてのシナリオの違いが、トビケラ幼虫の空間的な分布パターンを決めているのではないかと考えた。
そこで本講演では、上述のモデルを個体ベースモデルと格子モデルによって空間構造と複数の群れでのダイナミクスを扱うように拡張し、ハビタットに分布している各個体が周囲の情報に基づいて自身にとって最適な個体密度となる場所へ移動するようなモデルを提案する。このモデルを用いて、トビケラの行動に当てはめた条件のもとで計算機シミュレーションを行った。その結果、トビケラの空間的な分布パターンは、彼らの認識範囲と餌の固さによって決まる最適なグループサイズの違いで説明できることが明らかとなった。