| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-241
アカゲラは,分断化された森林地域で主要な樹洞生産者として重要視されているキツツキの一種である.先行研究において,北海道十勝地方でアカゲラの標識個体群のモニタリングを計8年間実施した.その結果,冬期の食物資源量と気温が成鳥生存率と加入個体数に大きな影響を及ぼし,それが個体群サイズ変動の主要因であることが明らかになった.この食物資源が移入マツであるチョウセンゴヨウの種子であり,その結実には同調性があることが知られている.成鳥生存率はチョウセンゴヨウの豊作年に60%以上,凶作年には30%前後と大きく変動し,加入個体数はチョウセンゴヨウが凶作かつ気温が低い冬の翌年に著しく少なかった.
本研究では,移入マツの減少が個体群存続性に与える影響を予測するため,先行研究で得られた人口学的パラメータとその変動パターンを組み込み,閉鎖系を仮定して個体群動態のシミュレーションを作成した.初期個体数400,環境収容力 500で100年間,10,000回試行したシミュレーションの結果では,個体群存続可能性は現状で97%以上だったが,チョウセンゴヨウが8.4%以上減少すると95%以下になった.また,チョウセンゴヨウが43%減少すると,個体群存続可能性は50%以下になった.
十勝地方では,かつて常緑樹としてチョウセンゴヨウが好まれて植栽され,その出荷ピークは約50年前である.農耕地帯では主に,点在する民家の周囲に数本から十数本という小単位で植栽されているので,1本が総数に占める割合は大きい.結実量は成長に伴い増加するが,成長すると伐採されてしまうことも少なくない.十勝地方の分断化された森林地域で,アカゲラの個体群維持,ひいてはその樹洞を利用する生物の多様性の保全を図るためには,移入種であるチョウセンゴヨウの維持管理にも注意を払う必要があるだろう.