| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-246
半水生であるカワネズミChimarrogale platycephalaの生息環境は渓流沿いに限定されているため、一般的な陸生小哺乳類と比べて個体群の孤立性が強い可能性がある。そこで本研究は、生物地理学的な観点から近接水系に生息する個体群のmtDNA Cytb領域の塩基配列を分析し、本種の遺伝的構造を解析することを目的とした。調査地は神奈川県丹沢山地を流れる相模川水系、酒匂川水系および奥多摩山地を流れる多摩川水系の渓流域である。丹沢山地の両河川は水系としては独立しているが、源流部は最小1.5kmしか離れていない。多摩川水系についても水系として独立しており、丹沢山地の調査地とは30km以上離れている。供試個体として、相模川水系の上流域(面積 約90 km2, 河川延長 約100km)で捕獲した17頭、酒匂川水系の上流域(面積 約10 km2, 河川延長 約6km)で捕獲した2頭、多摩川水系の上流域(面積 約10km2, 河川延長 約5km)で捕獲した1頭を使用した。供試個体から組織片を採取してDNAを抽出し、mtDNA Cytb領域部分配列(1080bp)の塩基配列を決定して多型解析をおこなったところ、全20頭から4つの多型(Hap-1, Hap-2, Hap-3, Hap-4)が認められた。相模川水系からはHap-1(16頭)およびHap-2(1頭)が検出された。酒匂川水系からはHap-3(1頭)およびHap-4(1頭)が検出された。多摩川水系からはHap-1(1頭)が検出された。以上のことから、同一水系に生息するカワネズミ個体群には、完全に単一でないものの主要な1つのグループが存在することが明らかになった。この結果について、他の陸生小哺乳類や魚類などの事例と比較検討する。