| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-247
北海道のエゾシカは、明治期に豪雪や高い捕獲圧により絶滅に瀕したが、針葉樹林の山系で数個体群が生き延びたと考えられている。その後、エゾシカは分布域を拡大しながら爆発的に増加した。現在北海道では、北海道を3地域に区分し、エゾシカの個体群管理を行っている。しかし、この区分は主にエゾシカの個体数と行政の利便性を考え設けられたもので、この区分が生物学的特徴に沿ったものであるか、改めて評価する必要がある。その為には、エゾシカ個体群の遺伝的構成と、分布域拡大に伴うその変化の把握が不可欠である。本研究では、分布の拡大過程にある1991〜1996年と生息適地への分布拡大がほぼ終了した2008〜2009年の、2つの時代のエゾシカ個体群の遺伝的構成を比較した。mtDNAのD-loop領域 (602bp) とmsDNA (5遺伝子座) の2つの指標を用い、1991〜96年と2008〜09年のエゾシカそれぞれ約200個体を分析した。各地域個体群のmtDNAのHaplotypeの比率からクラスター分析し、得られた個体群間のFst値の有意差 (P<0.05) を基に、2つの時代で北海道は4地域に区分された。この4つのエゾシカ個体群のmsDNAの遺伝子頻度に、1991〜96年より2008〜09年の方がより多くの地域間で有意差 (P<0.05) があり、2008〜09年で2地域に区分された。遺伝情報を基にした地域区分と保護管理に用いられている地域区分は一致せず、保護管理の区分は生物学的特徴に沿ったものとはいえなかった。また、最近15年間のエゾシカの分布域拡大に伴い個体の分散が抑制され、地域間で遺伝的分化が進んだと考えられる。