| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-258
マイマイガLymantria disparは約10年に1度大発生して様々な樹木の葉を食べる森林害虫である.北海道の混成地帯では子孫が雌のみになる現象がみられる.混成地帯とはミトコンドリアDNA(mtDNA)のハプロタイプが異なる2系統が混ざり合っている石狩低地帯の辺りを指しており,そこより西には本州型,東には北海道型が生息するが,すべて北海道亜種である.この性比異常にはmtDNAの系統ごとに性決定因子の強さが異なることが関連するため,混成地帯の個体ごとの性決定因子の組み合わせとその頻度を調査した.
まず混成地帯を含む北海道の3地域から卵を採集して卵塊ごとのmtDNAハプロタイプを調べた.それらを飼育したもの同士でハプロタイプの系統を考慮して交配を行い,翌年の成虫の性比を観察した.mtDNAの解析により混成地帯からは本州型と北海道型が共に検出され,道南からは本州型,旭川からは北海道型のみが検出された.交雑の結果,翌年の成虫は雌雄両方,雌のみ,雄のみというパターンが卵塊ごとに見られた.
性決定因子はその量的関係や強さのバランスによって性決定に関わっていると考えられ,細胞質中の雌決定因子と,Z染色体上の雄決定因子がある.性決定因子の強さは地域によって異なり,受け継ぐ因子のバランスが崩れると間性や致死となる.北海道型は最弱のため本州型との交配により片方の性が致死となる.mtDNAハプロタイプの結果が同じ本州型でも系統間交雑により例えば強い雌決定因子と弱い雄決定因子を1つずつ持つ雌が産まれ,生存,生殖が可能である.混成地帯から採集した同じ卵塊由来の交雑実験から異なるパターンの性比が観察されたため,混成地帯には系統間交配により強さの異なる性決定因子の組み合わせを持つ個体が繁殖していることを示している.