| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-262
ホンヤドカリ属は雌雄共に発達した右鋏脚をもつ。本属では、左鋏脚を摂餌行動に用い、右鋏脚を貝殻をめぐる闘争に使用することが知られている。本属の多くの種で体サイズの性的二型が認められ、さらにオス間闘争において相対的に大型のオスが有利であることが報告されている種もあるが、右鋏脚長の性的二型や、右鋏脚長がオス間闘争の勝率に及ぼす影響を検証した例はない。しかし、オスは左鋏脚でメスの貝殻を掴んで交尾前ガードをおこない、明らかに右鋏脚を用いてオス間闘争をおこなっている。そこで本研究では、ヨモギホンヤドカリPagurus nigrofasciaにおける右鋏脚長の性的二型を記載し、野外調査と室内実験によって右鋏脚長がオス間闘争の結果へ及ぼす影響を検証した。
メスをガードするオスとほぼ同サイズの単独オスによるオス間闘争実験の結果、ガードオスでは右鋏脚が長いほど勝率が高かった。対戦する2個体のオスのうち、片方のオスの右鋏脚を切除した実験では、切除オスの勝率が低かった。これらの結果から、本種の右鋏脚がオス間闘争時に武器として機能し、右鋏脚の長さや有無がその結果に強く影響することが示唆される。また、形態測定の結果、未成熟個体の右鋏脚長に性差はなく、成熟個体ではオスの右鋏脚が相対的にメスより長かった。このことは、オスの右鋏脚に性淘汰が作用していることを示唆する。そして、野外でガードオスとして採集された個体は、単独オスよりも大きな右鋏脚をもっていたが、両者の差は体サイズの大きな個体ほど小さかった。この理由について、本発表では右鋏脚に対するエネルギー投資の可塑的変異という観点から考察する。