| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-264
安定した社会構造を持つ動物において、毛づくろい行動は、衛生的機能のみならず社会的機能をもつことが知られている。本研究では、協同繁殖をする哺乳類ミーアキャットにおいて、優位個体が関与する毛づくろい行動の分析から、その社会的機能を検証した。以下の4つの結果より、毛づくろい行動の分布には、本種に見られる専制社会的特徴がみられ、個体間の社会関係の「価値」が反映されていることが分かった。(1)安定した繁殖パートナーである優位個体間は、劣位個体との間よりも、高頻度で毛づくろい行動を行っていた。(2)劣位個体から優位個体への毛づくろい行動は、優位個体から劣位個体への毛づくろい行動よりも高頻度に行われるという非対称性が見られた。この結果は、劣位個体は毛づくろい行動によって優位個体の攻撃性を緩和している可能性を示している。(3)優位オスは、群れ外オスから群れを防衛する劣位オスに対して長時間毛づくろいを行っていた。一方、優位メスによる毛づくろいは、繁殖をめぐる対立の相手である年長の劣位メスに対して、もっとも低頻度で行われていた。(4)優位オスから劣位個体への毛づくろい行動頻度は、群れサイズと負の関係を示しており、群れサイズが大きくなるにつれて、群れ内社会関係が希薄になっていることを示している。その一方、劣位個体が優位オスを毛づくろいする時間は、群れサイズが大きいほど長かった。この結果は、群れサイズが大きいほど、劣位個体一頭あたりの社会的価値が小さくなるために、劣位個体はより多くのサービスを行う必要があるというBiological market理論の予測と一致する。これらの結果から、ミーアキャットにおける毛づくろい行動は個体間の社会関係を構築・維持に用いられていると考えられる(Kutsukake and Clutton-Brock 2006, 2010, Animal Behaviour)。