| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-265
雌が複数の雄と交尾する動物では,雄は精子競争を勝ち抜くためにさまざまな行動を進化させる.雌交尾器をふさいでライバル雄の交尾を妨げる「交尾栓」もその一つである.クロナガオサムシの雄は精巣の付属腺からタンパク質を分泌し,交尾栓を形成する.交尾栓が大きいほど雌の再交尾率は低いので,大きな交尾栓は雄の受精成功を高めるうえで役立つと考えられる.しかし,大きな交尾栓が雌の繁殖成功に与える影響はまだよくわかっていない.
クロナガオサムシの雌は交尾栓を自ら排出することがあり,後にこれを摂食することによって栄養的利益を得る可能性がある.そこで,雌の餌条件を変えて交尾栓の排出頻度を実験的に比較した.交尾栓が雌にとって栄養であるならば,餌条件の悪い雌ほど交尾栓を排出しやすいと期待されたが,そのような傾向はみられなかった.また,雌の交尾栓摂食行動も観察されなかった.
次に,雌の交尾栓排出行動と関連する要因を統計的に探索したところ,雌の餌条件,体サイズ,卵巣重量とは関係がなかったが,交尾栓自体が大きい時ほど速やかに排出されることが明らかとなった.これは,大きな交尾栓は産卵を妨げ,雌にとってコストとなりうるため,より積極的に排除されているためかもしれない.
以上の結果は,大きな交尾栓は精子競争での雄の受精成功を高めうるが,同時に雌によってその効果が減ぜられやすいことを示している.つまり,クロナガオサムシの交尾栓のサイズをめぐって,雌雄のinterestは対立していることを示唆する.