| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-266

遺伝子座内性的対立は誇張形質の性的二型だけでは解消しない

*原野智広(九大院・理・生態科学), 岡田賢祐(University of Exeter, 岡山大院・環境・進化生態), 中山慧, 宮竹貴久(岡山大院・環境・進化生態)

オスとメスの相同形質の大部分は共通の遺伝子によって支配されている。しかし、相同形質の最適値はしばしば性によって異なる。その代表例は、メスを引きつける性的装飾やオス同士の闘争における武器として用いられる誇張形質である。これらの誇張形質はオスにおいては適応度上の利益をもたらすが、メスにおいてはそうではない。このような形質に働く選択は性間で拮抗的であり、各性の最適な形質が進化するのを妨げる。この状況は遺伝子座内性的対立と呼ばれる。

遺伝子座内性的対立は、性によって異なる表現型が発現すれば解消されると考えられる。多くの生物では、誇張形質はオスのみで発達するという性的二型を示す。このことから、誇張形質に働く選択が引き起こす遺伝子座内性的対立の大部分は、進化の過程で解消済みであると認識されている。しかし、オスの誇張形質に働く選択に対して、雌雄共有の他形質における相関反応が生じる可能性がある。その場合、他形質の相関反応がメスにとって非適応的であるために、遺伝子座内性的対立が生じるかもしれない。甲虫の1種であるオオツノコクヌストモドキにおいて、この形の遺伝子座内性的対立を実証した。本種では、オス間闘争に用いられる大顎がオスのみで発達する。オスの大顎を大きくするように人為選択を行うと、体の後部が小さくなるという相関反応が両性に現れた。このメスの体形における変化は産卵数の減少を引き起こした。これらの結果は、オスの大顎に働く選択が、雌雄共通の遺伝子に支配されている体形における変化を介して、メスの最適な形質の進化を妨げることを示している。したがって、誇張形質の性的二型の進化だけでは、遺伝子座内性的対立を完全に解消することはできないであろう。


日本生態学会