| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-270

アミメアリの物件選び

斎藤昌志・*廣田忠雄(山形大・理・生物)

生息環境は、時間とともに変化する。巣場所の選択には、現在だけでなく、将来も良好に利用できる環境を確保することが重要である。その際に、過去の経験を生かすことは有用である。アミメアリ(Pristomyrmex punctatus)は、永続的な巣を作らず、様々な環境を転々と移動する。加えて膜翅目昆虫は学習能力が高い。そのため、巣場所選択に対する学習の影響の調査に適している。

本種は、乾燥した微少気候を嫌い、遮光性と保湿性の高い物体を一時的な巣として利用する。この性質を利用し、以下の4つ実験を行った。

[実験1]巣があるケージを中心に、左右に餌場となるケージを配置し、各々1 mのホースで繋いだ。巣ケージと一方の餌ケージの土壌は人為的に保湿するが、他方の餌ケージは自然に乾燥させた状態で、1ケ月アリを自由に行動させた(学習期間)。その後、中心のケージから巣を取り除き、双方の餌ケージの土壌を湿らせた上で新たな巣を1つずつ設置して、行動を観察した。その結果、採餌時に湿っていたケージを巣場所として利用するのが分かった。

[実験2]学習後にホースを交換する処理を加えて実験を繰り返しても、同様の結果が得られた。そのため、残存した道標フェロモンの影響は低いと推定された。

[実験3]学習期間にランドマークを湿った餌場所のみに設置し、学習後にランドマークを逆の餌場所に移した。その結果、実験1・2と同じ結果を得、ランドマークの影響は見られなかった。

[実験4]実験3と同様のデザインだが、学習後ケージ・土壌・ホース・ランドマークを新品に交換して観察した。その結果、実験3とは異なり、ランドマークがあるケージに移動した。

このように、アミメアリは採餌時に湿潤であることを経験した環境を、餌場所として選ぶことが分かった。また、自身が分泌した指標や、環境中のランドマークなどを手掛かりにしていることも示唆された。


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