| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-286
ツチガエルは通称イボガエルとも呼ばれ、捕まえるといやな臭いを出す「くさい蛙」である。カエルの多くはヘビや鳥など様々な捕食者の餌となるが、野外のツチガエルはこうした餌としての報告例がほとんどない。またシマヘビの幼蛇を用いた室内実験からも、本種がニホンアマガエルと比較して食べられにくいことが示されている。その原因として、これまで本種のにおいが注目されてきたが、実際ににおい物質の正体や効果を調べた研究例は無い。その中で我々はツチガエルの体表から出る分泌物に着目し、この分泌物が本種のにおいや捕食回避の原因であると予想した。そこで、本種が遭遇しやすいと捕食者であるシマヘビを用いた室内実験を行った。
我々はガラス水槽の中にシマヘビ1匹を入れ、そこに対象のカエルを1匹入れてビデオ撮影によって観察した。シマヘビ34個体に、それぞれツチガエルと本種と色や形が非常に類似する(においは無い)ヌマガエルを1匹ずつ与えた場合、全てのヘビはすべてのツチガエル(n=34)を食べることができず、ヌマガエルの場合は71%が食べた。次に、本種の分泌物を、ヘビが通常餌としているニホンアカガエル塗布したもの(処理個体)と、ツチガエルと非常によく似た形態を持つヌマガエルの分泌物でコーティングしたもの(コントロール)を、同様に1匹ずつヘビに与えて観察した。撮影映像から、ヘビが個体に噛みついてから飲み込みを開始するまでの時間に処理とコントロールとの間で有意な差があった。中には処理個体を放してしまうも個体も見られ、これはヘビが実際のツチガエルに噛みついたときに瞬時に放してしまう現象と一致した。したがって、ツチガエルはその体表から出る分泌物に捕食回避の作用があり、これが「くさい蛙」と言われるにおいの原因であった。