| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-288

可携巣トビケラの巣材選好性の“地質的”変異

*岡野淳一(東北大・東北ア研),菊地永祐(東北大・東北ア研)

多くの可携巣トビケラの幼虫は,川底質の砂から適切な巣材を選び,それらを綴り合せて筒巣をつくる.一般的な種は,体との摩擦を軽減するために巣内壁に分泌物で内張りをするが,フトヒゲトビケラ科(Odontoceridae) は例外的に内張りを行わず,代わりに表面が滑らかな砂(石英などの結晶砂) を選り分けて巣材として使っている.我々の先行研究では,本科は滑らかな砂巣材への高い選好性があることが分かった.しかし,滑らかな砂(良質な資源) が乏しい(無い) 環境ではこれらの資源に特化できない(最適採餌理論)と考えられることから,資源環境が異なる場所間で選好性に違いがあることが予想された.

そこで,砂資源の質(表面粗さ) の環境が異なる6河川で採取した本科に,表面粗さが異なる2種の人工砂(粗い,滑らか) を同数づつ混ぜた底質で,巣を選択させる実験を行った.また,野外における各地点の底質と,巣に使われている砂の表面粗さを共焦点レーザー顕微鏡で測定し,実験で見積もられた選好度と比較した.

その結果,滑らかな巣材が少ない場所にすむ集団ほど自然巣の砂表面は粗く,実験においても滑らかな人工砂への選好性が低いことが分かった.また,野外での底質砂の表面粗さの質(頻度分布)は,その場所の地質(深成岩・堆積岩など) に規定されていた.石英や長石の結晶砂は比較的滑らかな表面をもち,それらを多く含む花崗岩由来の底質は,砂・泥岩の砂が主構成となる堆積層由来の底質よりも滑らかな砂が多い環境であることが分かった.

この結果からフトヒゲトビケラは底質の地質起源によって選好度が異なっていることが示唆された,滑らかな砂が乏しい環境では,選択する(探す) コストが大きくなるために,巣の機能のベネフィットとの比が最適化されるように選好度が規定されることが考えられた.


日本生態学会