| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-293
従来の異性間選択の理論では、雌が配偶者の選り好みを行なう性であると仮定し、雌の配偶者選択の観点から雄の形質の進化が研究されてきた。しかし近年、雄の配偶者選択が雌の形質の進化を促進していることが明らかになりつつある。本研究では、雌に遺伝性の2型(オス型とメス型)を生じるアオモンイトトンボにおいて、雄の配偶者選択の指標となる形質を調べるとともに、配偶者選択の可塑性を明らかにすることを目的とした。画像解析により成虫の胸部の色相を定量化したところ、成熟した雄やオス型雌、メス型雌の色相はそれぞれ有意に異なることが示された。雄とオス型雌では、前繁殖期と繁殖期の個体の色相に違いが認められなかったが、メス型雌では前繁殖期と繁殖期の個体で色相が有意に異なっていた。そこで、性や型、成熟段階の異なる個体を様々に組み合わせて雄に呈示する「二者択一実験」を行なったところ、羽化後から雌と隔離して飼育した交尾未経験雄は、どの個体に対しても等しい割合で交尾を試み、性や型、成熟段階を区別しないことがわかった。一方、本種の交尾活動時間帯である午前中に、成熟した雌と一度だけ交尾を経験させた雄は、交尾後数時間、同じ型の成熟雌を他の性や型、成熟段階の個体よりも好んで選んだ。雄は、交尾した成熟雌の色相を学習し、選択的に交尾を試みたといえよう。この行動は、雄が交尾相手として不適な同性個体や前繁殖期の雌への交尾試行が回避できるという点で、結果的に交尾成功度を高めることになる。ただし、色彩変化のほとんど認められないオス型の未熟雌と成熟雌に対しては、その型の成熟雌と交尾を経験した雄であっても、区別せずに等しく交尾を試みていたので、交尾経験雄による配偶者選択は相手の体色を指標に行なわれていた可能性が高い。これらの結果をもとに、雌における色彩の種内変異の適応的意義についても考察する。