| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-308
巣をつくる動物において、子育ての時期は、巣を離れなければならない採餌と巣やその付近に滞在していなければならない巣の防衛という相反する要求があり、どちらにどれだけ時間を費やすかという問題にさらされている。採餌と巣防衛の時間配分は一定よりも、子の捕食リスクなどの条件に応じて変えた方が有利だろう。そこで、親が様々な手がかりを用いて子の捕食リスクの上昇を察知し、巣防衛の時間配分を増加することは繁殖成功を高くすると考えられる。子の捕食は親の外出中に起こることが多い。そこで、親は実際に捕食者の姿を見ていなくても、子が捕食された痕跡を刺激として利用し、巣防衛時間を増加させる意思決定を行った方が有利だと考えられる。
フタモンアシナガバチは創設メスが1頭で巣を作り、子を育てる。メスは巣の成長に必要な資源を採集するために巣を離れる必要がある。一方、メスは他巣の幼虫を引き抜き自巣に持ち帰ることがあり、巣を離れると近くの巣の同種のメスに幼虫を捕食される危険性が高くなる。他巣のメスの攻撃を受けたとき、巣の持ち主のメスが在巣していれば、他巣のメスを追い返すことができる。
子の消失を捕食リスク上昇の手がかりとしていれば、外出中に他巣のメスによる幼虫の捕食が起きた場合、帰巣後メスは幼虫の消失を認識し、外出頻度の低下、外出時間の短縮を行うと予測される。そこで、メスの外出中に人為的に幼虫1個体を引き抜き、その後のメスの巣上での行動、外出時間、外出頻度の変化に着目し、外出中の幼虫消失が巣防衛への時間配分を増やす意思決定の刺激となるか検証した。実験の結果、幼虫の消失後、メスは1回の外出時間を短縮させ、巣滞在時間は増加させた。以上のことから、メスは幼虫消失を手がかりとして利用し、巣防衛時間を増加する意思決定を行ったと考えられる。