| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-037
小笠原諸島においては、近年,外来生物による影響が深刻化しており,様々な主体により駆除活動が行われている。今後,これらの事業においては,在来植生の迅速な更新の保証や絶滅危惧植物の集団サイズの確保などのため,異なる集団間で植物個体の移動を行わざるをえない局面が想定される。こうした行為は,歴史的な遺伝構造の不可逆的攪乱や異なるエコタイプ間の交雑に伴う外交配弱勢などにつながるおそれがあるため,対象植物について遺伝的変異や生態的特性の地理的なパターンについての情報を事前に蓄積することが重要である。しかし,既往研究には適応放散の顕著な種や希少種に注目した例が多く,広域分布種や個体数の多い固有種についてのデータは少ない。そこで本研究では,乾燥地の在来植生の主要構成種のひとつであるオガサワラビロウ Livistona chinensis var. boninensis に注目した。同諸島を構成する聟島・父島・母島・火山の各列島の16集団と九州の別変種の1集団から成木463個体を採集し,核SSRマーカーを用いた解析を行った。その結果,(1) 遺伝的多様性が高く,父島列島および母島列島北部で優占する系統,(2) 多様性が著しく低く,同諸島の北縁・南縁で頻度の高い系統の2つが確認され,それぞれの中で更に列島間での遺伝的分化が生じていることが示唆された。また、後者は九州の別変種により近縁であった。両系統はしばしば同所的に出現するものの,中間的な個体はごく僅かであった。西島の全成木636個体においてもこうした傾向は支持され、また、10月の時点では(2)のみが結実していたことから,フェノロジーのずれが系統間の交配を妨げていると推測された。同島では植物体の形態にも系統間で明瞭な差異が認められ、両系統が遺伝的・生態的に異なる隠蔽種である可能性が示唆された。