| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-038
国立公園など自然環境の保全が重視される地域では、緑化が必要な場合には在来種の利用が推奨されている。しかし、実際に使用される種子は99%が外国産であり、地域個体群の遺伝的多様性を損なう危険性が指摘されている。従って、遺伝的攪乱を避けつつ必要な緑化工事を行うためには、科学的根拠に基づいて種子採取地域を選定する必要がある。そのため、本研究では、在来緑化植物として利用されている種のうち、主要な植物群落の優占種であるススキを対象に、(1) 日本国内に分布する自然集団の遺伝構造を把握する、(2) 緑化に使用されている外国産在来種の遺伝子型を明らかにすることを目的に、葉緑体DNAのハプロタイプ解析を行った。全国の国立公園26箇所の自然集団より採集された約300個体および緑化用の外国産33個体からDNAを抽出し、葉緑体DNA4領域(計3500bp)の塩基配列を調べた。その結果、17ヵ所に変異が存在し、11ハプロタイプが見つかった。ハプロタイプネットワーク図を作成し、近接するハプロタイプをグルーピングしたところ、Aグループ(5ハプロタイプ)、Bグループ(3ハプロタイプ)、Cグループ(2ハプロタイプ)、およびそれらと大きく異なるハプロタイプDに分けられた。国内の自然集団ではAグループとBグループのみが見られた。両グループとも全国に分布しているが、Aグループは北海道に、Bグループは九州に多い傾向が見られた。緑化用の中国産個体は、Bグループが半数を占めた。一方、Aグループ中で最も多かったハプロタイプは外国産個体からは見つからず、日本固有の系統群である可能性が示唆された。AグループとBグループのハプロタイプは系統的に遠い関係にあり、両者が全国の集団内に混在して分布するに至った経緯について、今後探っていきたい。