オガサワラオオコウモリ Pteropus pselaphon は小笠原諸島唯一の固有哺乳類種であり、父島列島の父島、母島と、火山列島の北硫黄島、南硫黄島に分布している。これまで遺伝的な分析は行われておらず、各島の個体群の関係や、種としての遺伝的多様性に関する知見は得られていない。本研究では、父島、北硫黄島、南硫黄島の３島からの個体の試料を用い、ミトコンドリアDNAのcytochrome b およびコントロール領域によるオガサワラオオコウモリの地域変異及び遺伝的多様性の検討を行った。

分析の結果、遺伝的には、父島の個体群は２つのグループに分けられることが明らかになった。北硫黄島、南硫黄島の２島の個体群もそれぞれ遺伝的にまとまっており、計４つのグループに分けられた。火山列島の個体群同士（北硫黄島と南硫黄島）よりも、北硫黄島の個体群と父島の１グループ、南硫黄島の個体群と父島の１グループの方が近く、地理的な距離の近さと遺伝的な関係は一致していなかった。また南硫黄島の個体群と父島の個体群のうち南硫黄島に遺伝的に近いグループでは遺伝的多様性が比較的高いことが明らかになった。