| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-053

広域評価にむけた生物多様性指標の検討:ため池生態系を事例に

*角谷拓(国環研),赤坂宗光(国環研),青木典司(神戸市),樋口伸介(神戸大),高村典子(国環研)

生物多様性は多面的であり、その実態の把握には、種数や種多様性、絶滅危惧種や外来種の有無、さらには遺伝的多様性など様々な状態指標を用いて総合的に評価する必要がある。さらに、出現する生物種のリストにもとづく生物多様性の状態指標を得るためには、専門的な知識と経験をもつ調査者による現地調査が必須であり、適用可能な範囲が限定される。そのため、国や地域といった広域スケールでの評価に展開しにくいという現状がある。一方、富栄養化が進む湖沼など強い人為影響の下にある生態系では、生物多様性の高い状態から低い状態へ系が急速に変化するという現象が生じることが知られている。このような場合には、様々な生物多様性の状態指標が同時に同じ方向へ変化することから、多数の状態指標を、把握が比較的容易な少数の指標に統合できる可能性がある。

本研究では、兵庫県の64のため池で実施した網羅的な生物群集の調査結果を用いて、水生植物や水棲昆虫、底生生物など多岐にわたる分類群を対象として、種多様性や機能群多様性、絶滅危惧種数など複数の生物多様性の状態指標を算出した。その上で、これらの個別指標を統合した指標を算出し、同時にその統合指標と環境要因との関係を定量化する統計モデルを構築した。解析の結果、個別指標の挙動をよく説明する単一の統合指標は、アオコの発生量や外来魚の有無、ため池の周囲の景観構造といった環境要因に強く影響を受けていることが明らかになった。このような解析手法を用いることで、複数の環境要因が生物多様性の状態に対してどのような複合的影響をもたらすかについての知見を得ることができる。さらに、環境要因の広域的な把握が可能なリモートセンシングと組み合わせることで、ため池のように生物多様性の変化が一元的にとらえやすい系では、生物多様性の広域的な評価が可能になると考えられる。


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