| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-063
近年、徳島県剣山国立公園ではニホンジカの個体数増加が著しく、食害により希少植物が絶滅する可能性があることが懸念されている。剣山系の標高1700 m以上の地域では、積雪のため冬期にはニホンジカはより標高の低い地域に移動する。そのため、剣山系におけるニホンジカの増加は、周辺の地域からの分布の拡大や移動によって引き起こされていると考えられている。狩猟が禁止されている剣山国定公園においてニホンジカを管理するためには周辺地域からのニホンジカの移動ルートを把握し、それらの地域の狩猟圧を高める必要があると考えられる。本研究はミトコンドリアDNA D-loop領域の塩基配列を用い、剣山系へのニホンジカ個体群の移動経路を解明することを目的として行った。
四国東部に生息するニホンジカの集団を明らかにするために徳島県および高知県北・東部において有害駆除されたニホンジカ187個体の組織サンプルからDNAを抽出しミトコンドリアDNA D-loop領域の塩基配列の決定を行った。検出されたハプロタイプから、四国東部には7つの集団(徳島北集団、徳島北東集団、徳島西集団、東南部集団、徳島南部集団、高知北集団、高知北東集団)が存在することが明らかになった。次に、剣山系において採取したニホンジカの糞からDNAを抽出し、同領域の塩基配列を決定した。その結果、糞から抽出したDNA 36サンプルから3つのハプロタイプが検出された。これらのハプロタイプの構成から剣山系には徳島北集団と高知北集団からニホンジカが拡大・移入している可能性が考えられた。