| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-067

長野県における草原性チョウ類の分布記録と草原的土地利用

須賀 丈(長野県環境保全研)

長野県のチョウ類のうち約4分の1が県のレッドデータブックで絶滅危惧(IA類, IB類, II類)または準絶滅危惧とされている。このなかには採草・放牧・火入れなどの人間活動によって維持される半自然草原や疎林的な環境に依存すると考えられる種が多く、特に絶滅の危険度の高いカテゴリーでそのような種の割合が大きい。しかし過去の分布記録と過去の土地利用を照合してその関連を統計的にあきらかにした研究は知られていない。

そこで長野県におけるチョウ類の過去の分布記録と黒ボク土の分布とのあいだにどのような関連があるかを統計的に調べた。黒ボク土は、草原が火災によって長い時代にわたって維持された場合に生成され、人間活動がその生成に強く関わっていると考えられている。チョウ類の分布データとしては1930年代〜1990年代の標本と文献の記録を、黒ボク土の分布データとしては国土数値情報のメッシュデータをそれぞれもちいた。

チョウ類各種の分布記録の有無を従属変数とするロジスティック回帰分析をおこなった結果、草原環境に依存するオオルリシジミ・ゴマシジミ、疎林的環境に依存するミヤマシロチョウの分布記録が、いずれも黒ボク土の分布の広がりとむすびついていることが示された。長野県には縄文遺跡が多く、馬の放牧も古代以来さかんであったことが知られている。このような古い時代からの草原的土地利用が黒ボク土の生成に関与するとともに、これらのチョウ類の生息場所を維持することにもつながってきたと考えられる。一方、長野県の黒ボク土の分布域の多くが現在ではカラマツの植林地・水田・畑などに変えられている。したがってこのような土地利用変化がこれらのチョウ類の近年の減少に深く関与しており、これらのチョウ類の保全と回復のためには、火入れなどをともなう草原的・疎林的環境の維持・復元が有効である可能性があると考えられる。


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