| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-076

森林の植物の種数は絶滅危惧植物の出現頻度の指標となるか?

八坂通泰(道立林試)

一般に植物の種数は生物多様性の指標として考えられている。これは植物の種数が多い場所では,植物自身の多様性だけでなく,他の生物の多様性も高いという仮定に基づいている。実際に植物の種数が多い場所では,鳥類や昆虫の種数が多いことが知られている。ただし,植物の種数が,すべての生物の多様性の指標になるわけではないだろう。植物の多様性でさえ正当に評価できているかどうかは十分確認されていない。例えば,植物の種数が希少な種や絶滅危惧種などの生育場所の指標になるのかなど検証すべき点は多い。そこで本報告では,北海道の天然林において,植物の種数が絶滅の恐れのある植物の出現頻度の指標になるのかどうかについて検討した。

分析には環境省が実施した「第2回自然環境保全基礎調査」,「第3回自然環境保全基礎調査」,「日本の重要な植物群落」のうち森林に関する植生調査データを用いた。林分数は「第2回自然環境保全基礎調査」47林分,「第3回自然環境保全基礎調査」164林分,「日本の重要な植物群落」31林分で合計242林分である。

階層ごとの出現した植物の種数は、草本層で最も多く全体の60%以上を占めていた。242林分に出現した植物のうち,43の植物がレッドデータブックに記載されており,多年草が63%,木本が30%,1・2年草が2%であった。草本層に出現した植物の種数は林分間で大きく異なり,最小値は1,最大値は59で平均値は19であった。

調査林分内の植物の種数は草本層で最も多く,さらに絶滅危惧種の多くが草本であるため,森林内の種数と絶滅危惧種の出現確率との関係については,草本層を対象に分析した。分析は高木層,亜高木層の被度の記載がない調査林分を除き213林分を対象にした。その結果,草本層の種数が増えると絶滅危惧種の出現確率が上昇し,この効果は針葉樹が多い林分でより強い傾向があった。


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