| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-078
北海道東部知床半島では1970年代に再侵入したシカが1980年代から急増し、植生に大きな影響を与えている。最大の越冬地である知床岬では、1990年代の後半以降、600頭から500頭の集団が越冬し、シカの採食によって特徴的であった海岸草原と背後の森林の組成と構造に大きな変化が生じた。変質した海岸断崖に近いガンコウランなどを主体としていた風衝地群落と多くの大型多年草が生育していた高茎草本群落を復元する目的で、環境省事業として2003年より小規模の防鹿柵が設置された。それらは、2003年春に風衝地群落とセリ科を中心とした山地高茎草本群落に設置された2か所と、2004年7月に亜高山高茎草本群落に設置された1か所である。柵の設置時点で、風衝地群落を代表するガンコウランの優占度階級は1程度であった。山地高茎草本群落ではハンゴンソウ等の不食草が優占する一方で、エゾノシシウドやエゾノヨロイグサ等のセリ科草本は地表近くでかろうじて生育していた。また亜高山高茎草本群落でも不食草であるトウゲブキが優占していた。
風衝地群落でかつて生育していた54種、また山地と亜高山高茎草本群落を込みにして整理した場合の107種は、現状ではそれぞれほぼ半減しており、組成面での劣化が著しい。その一方で、柵の設置後7シーズンが経過した風衝地群落ではガンコウランの株数と株面積、および他の高山要素の種の個体数が著しく増加した。山地高茎草本群落や亜高山高茎草本群落でも群落高の回復が著しい一方で、不食草は減少した。なお山地高茎草本群落では特に多い24種が新たに加わったものの、その約半数は外来種や海浜の種であり、採食の撹乱によって組成とその後の遷移が偏向していることが示唆された。