| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-086
カジカ大卵型は日本の本州,四国,九州の山間部河川に広く分布する普通種であったが,近年では半数以上の自治体でレッドリストに挙げられており,本種の保護・管理対策が急務となっている.そこで本研究は,ミトコンドリアDNA(mtDNA)塩基配列データに基づく遺伝的集団構造解析を通じて,彼らの保全上の管理単位を抽出することを目的とした.
2008年6月に長野県上田市付近の千曲川水系3支流(浦野川,神川,依田川)の7調査地から採取した175個体と,同年9月に近隣他水系(天竜川)から採取した12個体の計187個体を分析に用いた.PCR法によりmtDNA調節領域前半を増幅し, 500bpの塩基配列を決定した.各標本集団内の多様度の指標として, ハプロタイプ多様度(h)と塩基多様度(π)を算出した.標本集団間の遺伝的分化の程度はペアワイズFst値を用いて評価した.
千曲川水系の7標本集団から8つのハプロタイプが,天竜川標本集団から3つのハプロタイプがそれぞれ検出された.千曲川の各標本集団は,天竜川の標本集団よりもhとπの値がいずれも低かった.最も優占的なハプロタイプは全体の47.6%を占め,千曲川の5標本集団から検出されたが,天竜川の集団からは確認されなかった.千曲川のほぼ全ての標本集団と天竜川の標本集団との間のFst値は大きく有意であった.また,千曲川水系内の標本集団の比較では,神川と浦野川,および神川と依田川の間で,異なる標本集団間のすべての比較においてFst値が大きく有意であった.さらに,神川と依田川では,各支流内の標本集団間でもFst値は大きく有意であった.本発表では,階層クレード分析の結果も踏まえ,カジカ大卵型の集団の保全に望ましい管理単位について考察する.