| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-090
沖縄島北部のヤンバル地域では、豊かな生物相が注目される一方、育成天然林施業と林道開設とが広い面積で行われてきた。育成天然林は有用樹の肥大と蓄積増大を図って天然林を除伐(切り捨て)し、林分の立体構造や組成を変える。また林道は林冠を細長く長期間にわたって開き、道沿いの環境を変える。本研究は森林の保全と利用計画とに役立つことを期待して、これらの林業活動の下での植生について、その変化を推測した。
比較的広い保護林のある西銘岳の周辺で、無施業地を含む固定試験地を19カ所設定し、毎木ならびに地表の維管束植物の調査を行った。同じく、開設後5年以内の林道7カ所と30年以上経過した林道5カ所において、道に平行方向と直行方向とのそれぞれに、帯状に毎木調査を実施した。調査地の履歴および立地条件と、植生構造との関係から、育成天然林施業と林道敷設が植生に及ぼす影響を推測した。
育成天然林施業地では、時系列上の比較によると、上層の木本の種数と蓄積が減少していた。草本を含む下層植物の種構成に大きな相違はなく、種多様性の回復力が失われていないことを示唆するが、伐採後20年以上経過しても、上層の種数と蓄積は回復しないと推定された。伐採が中層の立木を大きく損なわせるためと考えられ、保全と林業のいずれの視点でも、より丁寧な作業が必要である。
一方、新しい林道沿いでは枯死木が多く、小径の幹による株萌芽が旺盛になる傾向が認められた。枯死木の数、生木の幹数と蓄積には斜面方位および標高との関連も示されたため、林冠の伐開や風当たりの変化が、立木の生理的な変化を促している可能性がある。林道開設後に道沿いの景観や蓄積を維持するためには、施工に際して地形や方位への配慮も必要であろう。