| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-091

絶滅が危惧される塩生湿性植物オオクグとシオクグの遺伝的多様性の比較

*大林夏湖,程木義邦(京大生態研セ),國井秀伸(島根大汽水域研セ)

河川干潮域や汽水湖沼・潟湖に生育する塩生湿性植物は、港湾整備や河床掘削などの人為的な開発により生育可能な場所(砂州)が減少し、絶滅の危機に瀕している種が多い。本研究の対象とするスゲ属オオクグ(準絶滅危惧種)とシオクグ(普通種)もこのような環境に生育している。演者らはオオクグとシオクグに特異的なマイクロサテライトマーカーを開発し、両種の遺伝的多様性について検討を行ってきた。その結果、オオクグは遺伝子型数(ジェネット)と生育面積、平均アリル数と生育面積に正の相関がみられるが、全国的に見ても高い遺伝的多様性が保持されている個体群の数は少なく、個体群が1ジェネットで構成されている場合も見られた。このことから現存する大規模個体群は、現状のまま保全・維持する必要性が示唆された。一方シオクグでは、遺伝子型数と生育面積、平均アリル数と生育面積に有意な相関は見られなかったが、同一水系内の局所個体群数と遺伝子型数・平均アリル数に有意な相関がみられた。このことから、シオクグでは個体群の分断化や縮小化、隣接する個体群間の遺伝子流動の減少、創始者効果などにより個体群内の遺伝的多様性が低下している可能性が示唆された。以上のことから、現状普通種と考えられていても必ずしも絶滅リスクが低いわけではないこと、また類似環境に生育している2種でも、遺伝的多様性の保持の様式に違いがあることから、それぞれの種に対応した保全策を考える必要性が示唆された。


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