| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-095
薪炭林としての利用価値をなくし、雑木林に手が入らなくなって約50年が経つ。里山における主要な産業の場としての利用がなくなって荒れた雑木林は、人との関わりをなくしているのかを検討した。
川崎市麻生区黒川は、尾根をはさんで多摩ニュータウンの南東に隣接する里山である。都市に囲まれながら現在も里山の景観を有する黒川は、いろいろな意味で“ギリギリの里山”であるといえる。都市近郊の農業振興地域であるため、市場を背後にひかえる黒川の農家は生産意欲が非常に高い。そのため生業の農業に日々忙しく、里山の自然に関しては関心が高いとは言えない。
調査は、特に話を聞く場を設けるのではなく、個々との日常的な会話を通して聞き取るという形式をとった。聞き取りを通して、地域の自然資源を利用して昔から行われている”遊び仕事(マイナーサブシステンス)”である蜂採りの存在が明らかになった。通称オオクマン(オオスズメバチ)を採るためには、生業を離れ、危険をおかしてチームで挑む。採った獲物は仲間で食し、分配し、親睦を深める。昔は個人でスガラ(クロスズメバチ)を採るのが主だったのだが、数が減ったこともあり、対象を変えて現在に残っている。自然と関わりを持つこの遊び仕事がこれからも受け継がれてゆく可能性を検討する。
また、伝統行事とともに残る自然資源の利用法としてはセイノカミ(どんど焼き)があげられる。約50年前と今の資源利用を比べ、自然資源と人との関わりを明らかにすることで地域が自然を見つめ直す機会とし、さらにはそれが生態系保全へと結びつくような手がかりの一つとしたい。