| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-097

野生絶滅種コシガヤホシクサの野生復帰に向けた保全生態学的研究

*小幡智子(筑波大・生物資源), 田中法生(科博・植物園), 石川恵子(日本園芸生産研), 宮本太(東農大・農), 永田翔(科博・植物園), 上條隆志(筑波大・生命環境)

コシガヤホシクサEriocaulon heleocharioides(ホシクサ科)は、湿地に生育する日本固有の一年生植物である。1994年に最後の自生地である茨城県下妻市砂沼から絶滅し、現在は生息域外で保存されるのみの野生絶滅種である。砂沼での絶滅原因は、その年の水不足を背景に変化した水管理方法によると考えられるため、砂沼の水利関係者による合意形成を行い、1993年以前の水管理方法に戻すことができれば、絶滅前の生育環境が再現でき、野生復帰できる可能性が十分にある。しかし、本種における種子保存方法は確立されておらず、復帰予定地である砂沼での本種に適した生育環境条件は明らかでない。そこで本研究では、コシガヤホシクサの野生復帰を目指し、遺伝的多様性を維持しながら長期的に安定した種子採取・保存方法の確立および復帰予定地への最適な定着条件を検討することを目的とした。

交配様式を明らかにするため、異なる交配条件で結実率を比較した結果、放任受粉(88%)が最も高く、自家受粉(55%)が最も低かった。本種は自家受粉による結実の割合が高いが、虫媒による他花受粉も結実に貢献していることが示された。現地での放任受粉(68%)は栽培下での放任受粉より有意に低かった。これは、送粉環境や個体群密度の影響と考えられた。さらに、安定的な種子の長期保存法として超低温保存法の条件検討を行った。

復帰予定地での生育条件を調べるため、防魚網内/外、水底/水深30cmにバット苗を設置し、個体数の変化を調査した結果、網内より網外で、水深30cmより水底で減少率が低かった。

以上の結果から、コシガヤホシクサの野生復帰にむけた今後の保全指針を提案する。


日本生態学会