| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-099

ウグイにおける卵のふ化率と環境要因の影響

*小関右介, 茂木昌行, 小川滋(長野水試)

内水面における漁業権(第五種共同漁業権)魚種の義務増殖の履行方法として、多くの場合種苗放流が行われている。しかし、遺伝的多様性の保全等の観点から、これに代わるあるいは補う増殖方法が求められている。期待される方法の一つに産卵床の造成があるが、その増殖効果に関する生態学的知見は十分でない。とくに産卵床における卵のふ化率(生残率)については、ふ化仔魚の収集の困難さ(多くの淡水魚で1 cmに満たない)もあり、よくわかっていない。そこで本研究では、ウグイTribolodon hakonensisにおいて、模擬産卵床環境下における卵の生残率を調べた。ウグイの産卵は間隙流のある礫質の川底で行われる。この環境を模したビン式ふ化器内で卵をふ化させたところ、生残率は平均63%と高かった。卵の数(密度)も間隙流の速さも生残率に影響を与えなかった。これに対して、屋外試験池内の人工産卵床で産卵された卵のふ化率を推定したところ、平均1.2%と極めて低く、その一因として卵の発育期間中に発生した降雨濁水による土砂堆積の影響が推察された。土砂堆積によるふ化率低下は自然河川でも同様に生じうるものであり、適切な造成場所や造成時期の選定等によって土砂堆積の影響を最小限にすることが高い産卵床造成効果につながるだろうと考えられた。なお、本研究は水産庁の「生態系に配慮した増殖指針作成事業」により実施したものである。


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