| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-101

種内多様性からみた里山パッチ構造の保全的機能−シナイモツゴ生息地を例に−

*小西 繭(信州大・SVBL),古賀和人(長野市博),田崎伸一(エコシス),井口恵一朗(中央水研),高田啓介(信州大・理)

里山は,水田,ため池,畑,草地,雑木林,集落などがパッチ状に繰り返し分布する.このパッチ構造は,生態系・種多様性に寄与するだけでなく,種内のメタ個体群構造を発達させ,地域個体群の絶滅リスクを軽減する機能をもつと考えられる.

シナイモツゴは東日本の代表的な雑魚であったが,近年,国内外来種モツゴと置き換わりながら激減し,里山のため池でしか見られない絶滅危惧種(IA類)となっている.長野県北信地方の里山には,数km四方という狭いスケールに数百のため池があり,全国有数のシナイモツゴ生息地が残されている.先行研究のマイクロサテライト解析より遺伝的多様性が極めて低いこと(10座の平均対立遺伝子数1.80),および階層的なメタ個体群構造が見出されている.また各個体群内に共有される頭部形態の特異性は,摂餌環境である岸辺(抽水植物の多寡)への順応を示唆している.本研究では,個体群動態に関わる変量として産卵開始・終了時期,体サイズ頻度分布,および,個体群サイズを取り上げ,12個体群を対象に変異パタンを要約した.そして,パッチ構造に異質性をもたらす岸辺環境,水温,標高,および,池面積との関連を解析した.

個体群間の変異パタンはいずれも,遺伝的距離や地理的距離では説明されなかった.産卵開始時期は標高ではなく水温の影響を受けた.産卵期間と個体群サイズの間には正の相関関係が成立したが,調べた環境要因との相関は見出されなかった.以上の結果から,空間パッチ構造における異質性は個体群動態の同調を防ぎ,メタ個体群の絶滅リスクの軽減に寄与すると考えられた.里山(特に中山間地)の複雑なパッチ構造は,希少生物の保存場所として重要な役割を担っていると考えられる.


日本生態学会