| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-109
照葉樹林の分布北限および上限の優占種であるアカガシへの温暖化の影響を、気候条件、土地利用、移動距離を考慮して予測した。植物社会学データベース(PRDB)より抽出した、アカガシの在/不在を応答変数、気候要因を説明変数として、randomForest(Breiman et al. 2001)によりモデルを構築した。モデルを基に現在および気候シナリオ(RCM20)における2081〜2100年の潜在生育域を予測した。さらに土地利用データを用いて、土地改変の進行した地域を一定の基準でマスキングし、より現実的な現在および将来の生育域を予測した。
モデルの予測精度はAUCが0.98±0.03だった。現在の気候的な潜在生育域(150,542km2; 3次メッシュ数)は、暖温帯域に広く分布する。温暖化により、東北地方など緯度の高い地域や九州、中国、四国地方の標高の高い地域に拡大(180,141km2)。一方、中国地方西部など面積は狭いが、潜在生育域が潜在非生育域に移行する。土地利用を考慮した生育域の面積(74,567km2)は、気候的な潜在生育域の49.5%であり、分断・孤立化していた。土地利用および今後100年間に現在の生育域から1km移動すると想定した場合、アカガシ生育域の面積は現在と同程度だった(71,159km2)。生育域は、土地改変の進行した東北地方への水平的な分布拡大の可能性は低いが、九州、中国、四国地方の高標高域へ垂直的に分布を拡大し、ブナなど落葉広葉樹と徐々に置き換わる可能性がある。また、温暖化の植物分布への影響は、気候に反応する潜在生育域よりも、土地改変や移動速度により分布拡大は大きく抑制される。