| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-110
オオハマギキョウLobelia boninensis Koidz. (Campanulaceae)は,絶滅危惧II類(VU)に指定されている小笠原群島における固有種の1種で,しばしば高さ3m近くに達する1回繁殖型の多年生植物である.主に海岸近くの裸地から山腹地帯の日当りの良い傾斜地,岩壁などに生育する.戦前までは,小笠原群島内の至る所に広く分布していたが,野生化したヤギ(以下,ノヤギ)の食害によって近年個体数が急激に減少し,父島では自生個体を確認できない.現在,自生個体が確認されているのは,聟島列島では媒島のみ,父島列島では東島のみ,母島列島では母島・向島・姉島・妹島・姪島・平島である.母島列島にはノヤギがほとんど生息しないため,比較的多くの個体が残されている(各島数100個体).一方,媒島と東島では最近ノヤギが駆除され,絶滅は免れたが,個体数の急速な回復は確認されていない(幼個体を含めて各島50個体前後).
絶滅危惧種の状況を把握し,その回復と保全の方策を考えるためには,生育地に残存する個体を対象に大規模かつ詳細な分子遺伝解析を行い,種内の遺伝的多様性・集団間の遺伝的分化などを調べる必要がある.それにより,それぞれの集団の形成過程・種分化過程の初期段階の検出が可能になり,保全遺伝学・進化生物学の両分野の観点から重要な知見が得られると期待できる.
本研究では,絶滅危惧種オオハマギキョウを対象に,集団ごとの遺伝的多様性などを比較することを目的として研究を行った.具体的には,3列島から採集した5集団について,新たに開発したマイクロサテライトマーカーを用いて集団遺伝学的解析を行った.約50kmずつ離れて位置する3列島間,もしくは列島内(母島列島のみ)の遺伝子交流の程度を明らかにし,その結果について報告する.