| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-111

土岐川・庄内川流域圏における里地里山指標種ハルリンドウのハビタット広域評価

*味岡ゆい,愛知真木子,上野薫,寺井久慈,南基泰(中部大院・応生),小田原卓郎,横田樹広,那須守,米村惣太郎(清水建設(株)・技術研)

土岐川・庄内川流域圏上流域の岐阜県東濃地方から中流域の愛知県東部丘陵地域の中山間地域には典型的な里地里山が広がり,本流域圏のホットスポットとなっている.生物種の保全には,現在の分布状況や生育地環境の把握に加え,その地に分布拡大するまでの分布規定要因と定着,生育を左右する生育規定要因の把握といった生育地として成立するに至った要因の把握が必要である.特に,植物種の場合,過去に生じた地史的要因は,現在の分布に大きな影響を与え,また,生育地の成立には,土壌,気候,生物的要因などが寄与すると考えられる.本研究では,土岐川・庄内川流域圏における里地里山指標種であるハルリンドウを用い,遺伝的に異なる系統間の分布規定要因及び生育規定要因の地域固有性と共通性の検討を試みた.本種の葉緑体DNA遺伝子間領域trnS-rps4の解析を行った結果,本流域圏内から2つの系統(グループT及びグループSA)を確認し,特にグループTは,本流域圏から多数確認された.本流域圏を含む東濃地方に分布するグループTの生育地は中期中新世〜鮮新世と古い表層地質に成立し,一方,周伊勢湾地域に分布するグループSAは,後期更新世とグループTに比べると新しい表層地質だった.この2系統の分布域は,表層地質の相違に規定されたようであり,本種は大陸系遺存種であることから,両系統の移入期,分布拡大期は異なったことが示唆された.ただし,両系統共に,約85%が,樹林,草地など典型的な里地里山を生育地としており,生育規定要因に関しては系統間での共通性が高く,固有性は見出せなかった.以上より,本種の分布は地史的な要因によるものと考えられるが,その後の定着,生育は,移入先の環境要因に規定されることが示唆された.


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