| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-116
トキの餌場確保を目的として、2003年から現在まで佐渡の中山間地の棚田跡地にビオトープとして120以上のため池が造成された。この棚田跡地は耕作放棄されてから約40年が経過し、森林化していた場所である。40年もの長期に渡って、放棄され森林化した水田跡地をビオトープ化した例は他に存在しないと考えられ、土壌シードバンクからの植生復元が可能であるかは明らかではない。以上のことから、ため池内に出現する絶滅危惧種をはじめとする植物組成と生育環境を明らかにし、ため池の維持管理の基礎資料を得ることを目的とした。
調査の結果、水田雑草などの湿生・水生植物を主とする全115種が確認された。その中には絶滅が危惧されているシャジクモ類やイチョウウキゴケ、サンショウモ、イトモなど9種類の絶滅危惧植物が確認された。また、ため池が造成された場所、水位などの環境要因によって大きく植生が異なった。シャジクモ、イトモは湛水条件のため池で多く確認された。しかし、出現した2種のフラスコモ属(チリフラスコモ、ジュズフラスコモ)は大半が湛水条件下で確認されたが、湿潤状態のため池でも確認された。フトヒルムシロ、イチョウウキゴケなどの陸生形となって生育できるものは、湿潤状態のため池にも生育していた。
このように40年以上放棄された棚田からの植生の復元は可能であることが示され、絶滅危惧植物などの湿生・水生植物の保全にも効果が期待される。耕起などの撹乱の必要性の有無や年間水位の変動、水質の変化、ため池の遷移の抑制、絶滅危惧植物の生育するため池のモニタリングなどが今後の課題である。