| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-127

マイクロサテライトDNA解析による希少種イトウの遺伝的構造

*北西滋(立命館大),江戸謙顕(文化庁),秋葉健司(HuchoWorks),大光明宏武(イトウ生態保全ネット),野本和宏(北大・環境科学),小泉逸郎(北大・地球環境),東正剛(北大・地球環境)

北海道にのみ生息するサケ科魚類イトウHucho perryiは、各種レッドリストで絶滅危惧種として記載され、絶滅が憂慮されている。本種を適切に保全するためには、各個体群の遺伝的多様性や固有性など遺伝的観点からの情報が不可欠であり、遺伝的構造の解明が急務である。本研究では、マイクロサテライトDNAを用いて、北海道全域におけるイトウ個体群の遺伝的構造を明らかにし、保全遺伝学的観点から、より適切なイトウ保全策の立案に寄与することを目的とした。

解析は、北海道内の主要分布域を網羅する14個体群350個体について実施した。各個体群間の遺伝的分化の程度(FST、exact test)を求めた結果、全ての個体群間において有意な遺伝的差異が検出され、河口間距離が10km以下の近隣水系間、さらには、同一水系内の異なる支流間においても、遺伝的な分化が進んでいることが明らかとなった。また、isolation by distance等の結果から、明瞭な遺伝的構造が認められた。各個体群の遺伝的多様性(Allelic richness、ヘテロ接合度)を求めた結果、北海道全域におけるイトウ個体群の特徴として、全体的に遺伝的多様性が低く、特に道北・道央地方の個体数が多く安定した個体群においてその傾向が顕著であった。一方、道東地方の絶滅が危惧される個体群においては、比較的高い多様性が確認され、また、複数の固有対立遺伝子も見られた。

以上の結果より、北海道に生息しているイトウ個体群の遺伝的特性として、高い個体群固有性と低い遺伝的多様性が明らかになった。発表では、これらの結果に基づき、本種の遺伝的特性を踏まえたより適切な保全策について考察する。


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