| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-130
東京湾では埋め立てにより干潟面積が減少し,特に消失が著しい塩性湿地や泥干潟に生息するベントス種で,絶滅および絶滅が危惧されている.埋め立ての際に旧海岸線と埋立地の境界部に造成された人工水路では,一部で小規模な塩性湿地や泥干潟が非意図的に形成されている.プランクトン幼生分散期を持つ干潟ベントス種は分散を通した局所生息地間の連携が必要とされることから,湾岸の水路内に散在する塩性湿地や泥干潟は,東京湾全体での干潟ベントス種多様性保全にメタ個体群の視点から重要な役割を果たすと推察される.本研究では,水路内の標高勾配や植生などの微地形構造とベントス群集構造を解析することで,希少種を含めたベントス種多様性保全に対する生息場としての重要性を評価することを目的とした.
2008年に東京湾岸人工水路15カ所の調査地で調査した結果,特に種数の多かった調査地5カ所で,2009年5〜10月の毎月大潮干潮時に目視・掘り返し調査によりベントス各種の在・不在データを得た.各調査地で汀線から岸側に向かって比高を求め,上部と下部を設定した.ベントス群集構造を把握するため,得られたデータより類似度を求め,多変量解析を行った.
ベントス種は54種(複数種から構成される可能性のある生物群も1種として扱った)確認され,その中にはウミニナ,フトヘナタリ,サザナミツボ,ヒメアシハラガニ,ウモレベンケイガニ,アリアケモドキなど東京湾内での希少種が12種含まれていた.多変量解析から群集型は,植生を含む上部(11),植生が無い上部(2),下部(7)と3分割された(括弧内は希少種数).上記の希少種は東京湾に残存する開放的な干潟ではほとんど見られず,水路内に散在する小規模な干潟が,各種のメタ個体群維持に貢献していると考えられる.