| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-135

マイクロサテライトマーカーを用いた落葉低木ユキヤナギの遺伝的構造

*芦澤和也(明治大・院・農), 木村恵,練春蘭(東大・ア生セ), 倉本宣(明治大・農)

ユキヤナギ(Spiraea thunbergii Sieb.)は、河川の岩場に生育するバラ科の落葉低木である。大阪府、広島県などの地域版のレッドデータブックに記載されており、生育地の保全が求められているが、遺伝子レベルでの多様性については検討されていない。本研究では、ユキヤナギのマイクロサテライト(SSR)マーカーを10個開発し、DNA多型解析を行うことにより、自生集団の遺伝構造を明らかにした。また本種は、庭木としてさまざまな地域に植栽されることから、自生集団と植栽集団との遺伝子型の比較も行った。

開発したマーカーを用いて、阿武隈川(宮城県、福島県)、多摩川(東京都)、太田川(広島県)の3つの自生集団で解析した結果、河川内における遺伝的多様性は低い値を示した。阿武隈川の31個体では、4つの遺伝子型が存在し、そのうちの25個体は、遺伝的に同一であった。多摩川の24個体は、遺伝的に同一であった。太田川の個体は、32個体が遺伝的に同一で、残る1個体については、ほかの個体と1遺伝子座が異なるのみであった。

さらに東北地方から四国地方の10河川の岩場に生育する31個体を加え計119個体を1つの自生集団として解析したところ、Heは0.38、Allelic richnessは2.68、Fisは0.93であり、自生集団は一つの河川内で近親交配によって集団を維持している可能性が考えられた。それに対して植栽集団(東北から近畿にかけて採取した計11個体)では0.52、3.70、0.18であり、自生集団に比べて遺伝的多様性は高い値を示した。これは植栽個体がさまざまな地域の個体をかけあわせて生産された可能性を示すと考えられる。


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