| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-142
小笠原諸島に生息する固有亜種アカガシラカラスバトは、推定個体数が100羽程度であり、絶滅が危惧されている。ミトコンドリアDNAを用いた系統解析では、保全上重要な系統であることが示された (Seki et al. 2007)。また近年、50km以上離れた島間 (父島‐母島、父島‐聟島) において個体の移動が確認され (高野 2004)、各島の集団間に遺伝子流動が存在する可能性が示唆されている。アカガシラカラスバトを長期的に保全するためには、集団の遺伝的多様性および遺伝構造を把握し、適切な保全単位を決定することが重要である。また、生息地以外での保全や生息地への再導入を検討する必要があるが、これらの人為的介入を適切に行なうためには、飼育、野生集団間の遺伝的差異についても把握する必要がある。そこで本研究では、アカガシラカラスバトの5集団 (父島、母島、北硫黄島、硫黄島、飼育集団) 計76個体について、マイクロサテライトマーカーを用いた遺伝解析を行なった。
各集団の平均対立遺伝子数は1.3‐2.0であった。すべての遺伝子座において、単一の対立遺伝子が優占しており、遺伝的多様性が非常に低いことが示された。野生集団においては複数の対立遺伝子が検出され、母島及び北硫黄島の集団からは固有の対立遺伝子も検出された。飼育集団においては、1個体から野生集団では検出されなかった対立遺伝子が検出された。今回の結果から、アカガシラカラスバトの遺伝的多様性を保全するためには、現在の野生集団を確実に維持することが重要であるといえる。また飼育集団において交配を行なう際には、個体の遺伝子型を考慮する必要があると考えられる。