| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-273
森林生態系において窒素は植物の成長の制限要因である。そのため生態系内では植物-土壌間の内部循環系が卓越し,大気から流入する窒素を効率よく保持する機構を有する。森林が皆伐されると窒素保持能力が低下し,窒素が大量に流出する一方,皆伐後森林の成立に伴う窒素循環の変化については未解明な部分が多い。
本調査地は,奈良県に位置する集水域単位で林齢の異なるスギ人工林である。皆伐直後,5,16,31,42,89年生集水域で窒素の年間流入・流出量と窒素保持能力を把握し,植物の窒素吸収量との関係を検討した。さらに土壌の窒素蓄積量を測定し,集水域の窒素保持と植物-土壌間の窒素内部循環系との関係を考察した。
皆伐後,窒素流出量は皆伐前の約4倍増加し,窒素保持能力も負の値を示したが,16年生スギ林で窒素保持が約65%と皆伐前の状態まで回復した。皆伐後に増加した窒素流出は,植物の窒素吸収量の増加に伴って減少し,皆伐後の窒素保持は主に植物の窒素吸収に規定された。植物の窒素吸収量は30年生スギ林をピークに減少したが,90年生では窒素流出の増加および保持能力の低下は見られなかった。一方,林床有機物中の窒素量は皆伐後から5年生にかけて約70%消失し,その後植物からのリター供給に伴って増加し,約40年で皆伐前の量まで回復した。0-10cmの鉱質土壌中の窒素現存量は5から16年生にかけて減少した後,89年生まで増加した。このことから,高齢林の窒素保持には,植物の窒素吸収以外に林床有機物層や鉱質土壌層における窒素蓄積が重要になることが示された。すなわち,集水域の窒素保持能力の主な規定要因が,人工林成立過程で植物から土壌へとシフトしており,窒素流出を抑止する人工林管理には若齢林で植物の成長促進を,高齢林で有機物層や土壌層の保全を考慮する必要が示唆された。