| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-278
稲にとって有用元素であるケイ素(Si)は,米生産の持続性に関して最も重要な要因の一つである.そこで本報では,インドネシアの稲作の中心地の一つである西ジャワのCitarum集水域において,集水域内のSi動態を調べた.
水環境中の溶存態Si(DSi)濃度は,上流河川では22.2-36.6mg/Lであったのに対して,集水域中程のダム以降の中下流域では12.6-24.8mg/Lと減少していた.この減少の理由として,近年集水域内のダムにおいて盛んに行われている養魚が考えられた.養魚のエサに含まれる,窒素・リン・硫黄等により水中のケイ藻の生育が盛んとなり水中のSiを吸収していることが推察される.調査の結果ダムにおいては,DSi濃度とケイ藻個体数に負の相関が認められている.養魚に関する正確なデータが得られないため,養魚由来の各種栄養塩の負荷量は現段階では推定できないが,水環境中のリン・硫黄はダムにおいて突然増加していることから,主要な負荷源と考えられる.DSiの減少は低地水田への灌漑水由来のSi供給の減少につながる.中流域から低地に分布する水田土壌中の可給態Si含有量は,Bollich & Matichenkov(2002)の定義でlowと判断されており,灌漑水由来のSi供給量の減少は,水田における可給態Si収支をさらに悪化させる原因となる.土壌中可給態Si濃度と稲植物体中のSi含有量には有意な正の相関が認められ,稲の耐病害性の低下が懸念される.以上,現状では定性的な結果であるが,ダムにおける養魚がインドネシアの主要な産業である稲作の持続性に影響を与えている事が推察された.