| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-290
マングローブ植物の生育地である沿岸域では,潮汐変動によって大量の有機物と共に窒素が流出するプロセスが日々繰り返されている.しかし,発達したマングローブ生態系の林床土壌を調べると,比較的高い窒素含有量と共に窒素固定活性が検出されることが多い.このことから,マングローブ土壌における窒素固定機能は,マングローブ植物への窒素供給を補償する重要な機能であると考えられる.本発表では,ベトナムメコンデルタで行ったマングローブ林の窒素固定機能に関する調査結果を報告する.
アジア最大級の大河であるメコン河が形成するメコンデルタはかつて,広大なマングローブ林で覆われていた.しかし,フランス統治時代(1887-1945)に行われた水田への転換と,ベトナム戦争時代(1965-1975)に行われた枯葉剤散布により,ほぼ全てのマングローブ林が壊滅した.戦後の植林活動により,ある程度の回復が見られたものの,都市化や産業開発に伴い再び減少する傾向にある.現存するマングローブ林の近隣には下水整備の不十分な都市やエビ養殖池が迫っている.本研究ではマングローブ林の窒素固定機能の現状を把握し,近隣からの排水によるこの機能への影響を明らかにする事を目的とした.
メコンデルタの主要なマングローブ域3地域において,林床土壌の窒素固定活性と森林に近接する水路や河川の水質を分析した.土壌窒素固定活性は,保護管理されている森林で最も高く,粗放エビ池用水路で林内が細分されている森林で最も低かった.粗放エビ池の溶存アンモニウム濃度は都市の下水並みに高く,このことが窒素固定を担うニトロゲナーゼ活性を低下させる一因となっていると考えられる.また,集約エビ池からの排水は溶存アンモニウム濃度が比較的低いにも関わらず,窒素固定活性を低下させる効果がある事が明らかとなった.