| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-298

集水域における森林タイプが溶存有機炭素濃度に影響するのか?

*阿部将己,藤原一繪(横国大・院・環境情報)

森林の荒廃や湖沼の水質汚染,海洋沿岸の磯焼けといった生態系の衰退が懸念されている.森林生態系を起源とする栄養塩が河川や湖沼,さらに沿岸域への流出によって他生態系へのエネルギー供給という物質循環の側面からその輸送プロセスを理解することは重要である.その中で溶存有機炭素(DOC)中に含まれる腐植物質は植物遺体が微生物に分解されることで形成される有機物であり,陸上植物への生長促進効果がある.とりわけ腐植物質のひとつであるフルボ酸は無機栄養塩を外部へ運ぶ物質輸送能をもち,沿岸域の生態系の底辺を担う植物プランクトンの増殖や水産資源であるコンブ,ワカメの生長に寄与することが明らかとなっている.

本研究では,海洋沿岸の生産力を規定する一要素として森林域の地形学的特徴,そして森林タイプによって渓流中へのDOCに与える影響を解明することを目的とした.  

その結果,一般線形モデル(GLM)によるモデル選択によって,集水域の乾性褐色森林土面積が負の要因としてDOC濃度に大きく影響していることが示唆された.Relative variable importance(RVI)において,上位3つは高い順から乾性褐色森林土面積,針葉樹林分面積,広葉樹林分面積であった.針葉樹林分面積は負の要因として,また,広葉樹林分面積は正の要因としてDOC濃度に影響していた.土壌フルボ酸含有量は渓流中のDOC濃度とは対照的であった.適潤な褐色森林土よりも乾性褐色森林土でフルボ酸含有量は多かった.しかし,広葉樹林分と針葉樹林分による有意差は見られなかった.

以上の結果より,森林タイプよりも土壌タイプ,特に乾性褐色森林土においてDOC濃度が規定されていることが考えられ,それはフルボ酸の貯留時間が適潤な褐色森林土よりも乾性褐色森林土で長いことから,結果的に渓流へのDOC流出量が抑制されていることが示唆された.


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