| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-303
高層湿原における生態系プロセスの研究はこれまで、寒冷な高緯度地方で主に進められてきた。しかし、近年の地球温暖化がこれらのプロセスに及ぼす影響を予測するためには、より温暖な地域の高層湿原における比較研究が役に立つだろう。
湿原における生産物の分解過程は、物質循環にかかわる重要なプロセスである。寒冷な高層湿原において植物の分解速度を制限する要因としては、低水温、低pH、低酸素状態、植物質の分解されにくさ、それらに伴う分解活性の低下などが挙げられている。
本研究では、暖温帯高層湿原である深泥池(京都府京都市)において、植物リターの分解速度を決める要因を明らかにするため、リターの種類、生息場所、分解者(主に大型無脊椎動物)の効果を独立に操作した実験を行った。高層湿原を特徴づける3種類の生息場所に優占する植物としてミツガシワ、ハリミズゴケ、オオミズゴケを選び、リターバッグを用いた分解実験を行った。分解者の作用を操作するために、2種類のメッシュサイズ(2mm、0.2mm)のリターバッグを用いた。分解実験に加えて、分解に影響を及ぼすと考えられる環境変数を、年間を通じて各生息場所で測定、比較した。
リターの種類間での分解速度の比較から、2種のミズゴケ属は分解されにくいが、ミツガシワは速やかに分解されることが明らかになった。生息場所間での分解速度の違いは見られず、ミズゴケが生み出すpHの低い環境は分解を制限する要因とはなっていないことが示唆された。また、メッシュサイズ間での分解速度の違いが見られなかったことから、大型の分解者の効果は小さく、より小型の生物が分解に寄与していることが示唆された。寒冷な地域での研究結果と比較すると、暖温帯の高層湿原では、分解を制限する各要因の影響は大きく異なっていると考えられた。