| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-309
熱帯降雨林下の強風化土壌では、植物にとって利用しやすいリンが少なく、一次生産はリン制限を受けていると言われている。樹木は、リン欠乏条件で根から積極的に有機酸を放出することによりリンを獲得し得ることが知られているが、野外(特に成木)での実証例は少ない。本研究では、樹木根にシリンジを装着する新しい手法によって野外での有機酸の放出量を実測した。地質や標高の異なる森林の比較により、土壌リン可給性、樹種、一次生産量と根からの有機酸放出量の関係を明らかにし、放出量の規定要因を検討した。
マレーシア、ボルネオ島キナバル山の熱帯山地林(PHQ:第三紀堆積岩、BU:第四紀堆積岩)および熱帯低地林(PO:第三紀堆積岩)において、1.樹木根から分泌される低分子有機酸の放出速度、2.土壌溶液中の低分子有機酸の濃度及び3.土壌微生物による低分子有機酸の無機化速度を測定した。
根からの有機酸放出速度は、クエン酸で3.8-109 nmol g-1 root h-1、シュウ酸で1.5−38.8 nmol g-1 root h-1であり、PHQ、POではBUの20-30倍の値をとった。これはPHQ、POはBUに比べて土壌が酸性、もしくは可給態リンが少ないためであると考えられる。根からの有機酸放出量は、地上部純一次生産量の0.14%(BU)-12.6%(PHQ)に相当した。土壌中の有機酸無機化量に対する根からの有機酸の寄与率はクエン酸で6.8-11.0%、シュウ酸では27.4-73.2%に相当した。また、PHQ 、POでは土壌溶液中の有機酸濃度は非根圏よりも根圏の方が高かった。これらのことから、土壌中の有機酸の給源として根滲出物が重要であり、リンの欠乏しやすい土壌において樹木が積極的に有機酸を放出し、根圏環境の有機酸濃度を高めていることが定量的に示された。