| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-310
中国内蒙古自治区毛烏素沙地に自生する臭柏(Sabina vulgaris)はヒノキ科の常緑樹であり、匍匐伸長を行うため砂の飛散を抑えることや、挿し木による定着が比較的容易なことなどから緑化への利用が期待されている。臭柏はこれまでの研究から、水利用効率の高い種であることが指摘されているが、半乾燥地で水と同様に限られた資源である養分の利用に関しての研究はあまり行われていない。本研究では成長段階ごとの違いに着目して、臭柏個体内の窒素を主とした養分の蓄積様式とその利用形態について明らかにすることを目的とした。
調査は2008年9月と2009年8〜9月に毛烏素沙地で行った。臭柏樹冠の被覆度や個体サイズなどから、稚樹期、樹冠被覆拡大期、衰退期を含む5段階の樹齢を想定して対象個体を選定した。各個体の葉、枝、根、リターと、樹冠内外土壌を深度別に採取し、植物体の窒素、土壌の有機態窒素、硝酸態、アンモニア態窒素(NO3-、NH4+)の現存量、それらの窒素安定同位体比(d15N)を測定した。土壌試料の一部で培養実験を行い、硝化、無機化速度を推定した。
若年個体より樹冠が密に発達した個体下の土壌窒素量が多いことから、長期の樹冠による被覆の結果、養分蓄積量が増大していることが分かった。また、被覆度が大きく、無機化、硝化速度が最も大きい個体のd15Nが最も高かった。個体間のd15Nの傾向から、臭柏のd15Nには硝化の際の同位体分別の大きさが反映されていると考えられた。発達した樹冠下で硝化が活発な環境ではNH4+の大部分が硝化され、未発達の樹冠下で硝化が不活発な環境よりも生成されたNO3-のd15Nは高くなると考えられる。樹冠の衰退期には、再び硝化が進みにくくなりd15Nが低下すると推測される。