| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-315
地球規模の温暖化が懸念される中、様々な生態系において温暖化操作実験が行われてきた。しかし、温暖化の草原土壌圏に及ぼす影響に関する研究は未だ十分とは言えない状況にある。特に栄養塩は物質循環において非常に重要な位置を占めるにもかかわらず、データが不足している。また土壌微生物の現存量は生態系特異的な反応を見せる場合が多く、個々の生態系における実験が必要である。
そこで本研究では、岐阜県の乗鞍岳にある冷温帯シバ草原において野外温暖化操作実験を実施し、昇温の土壌圏への影響を調査した。昇温装置は赤外線ヒーターを地表から1.2mの高さに設置し、地下2cmの地温を通常より2℃上昇させた。調査区にシバ草地を10区画分移植し、その半分について5月から12月にかけて昇温を行った。また土壌については、炭素・窒素含有率、微生物現存量、栄養塩(アンモニア態・硝酸態窒素量)、水分量、pHの7項目に関して解析を行った。
その結果、まず炭素・窒素含有率では、両元素とも僅かに含有率を増すという結果が得られた。これは地上部現存量の増加と微生物現存量の低下に原因があると考えられる。次に微生物現存量は、昇温によって減少するという結果となった。これは先の研究における傾向と矛盾しており、さらなる調査が必要であると判断した。さらに栄養塩に関しては、アンモニア態・硝酸態窒素ともに昇温した系の方が高い濃度を維持した。微生物量が増加していないにも関わらずこれらの濃度が高まったということは、微生物の生理活性が上がった、または微生物の構成種に変化があったためと考えられる。土壌圏では複数の環境要因における変化が互いに影響し合っているため、地上部解析を含めたさらなる考察が必要である。