| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-317
森林土壌の有機物堆積層(Ao層)について、これまで、落葉落枝の分解過程における化学的変化や微生物の関与が調べられてきた。しかし、Ao層の生物活性に影響を及ぼす保水性や空隙率など土壌構造の変化に関しては、適切な手法を欠き、ほとんど解明されていない。最近、小型、省電力、メンテナンスフリーの永久磁石による核磁気共鳴画像化装置(MRI)が開発され、森林土壌研究への適用の道が拓かれた。本研究では、この小型MRIを使用して落葉落枝から腐植への変化と土壌構成成分、保水性、空隙率の変化の関係を調べた。
早稲田大学軽井沢試験地の落葉広葉樹林と常緑針葉樹林の土壌を採土管で採取し、落葉層(L層)と腐植層(FH層)に分け、各層における葉や団粒などの構成成分の量を測定した。さらに、MRI画像を用いて保水性・空隙率を調査した。
その結果、L層からFH層へ、主として、葉が団粒や微細植物片などの土壌成分へと変化した。それに伴い、保水性が上昇し、構造が均一化されるなど物理性が変化することが明らかになった。また、広葉樹林L層では、自然乾燥状態における保水性は弱いが、FH層では高くなると同時に空隙率は低くなった。一方、針葉樹林L層は強い保水性を有し、FH層ではさらに高くなり、空隙率は広葉樹林より高い値を保った。このような土壌物理性の変化は林分によって異なり、団粒や微細植物片などの堆積物による水の束縛は、広葉樹より針葉樹の方が強く、腐植化によって束縛の程度はより強くなった。
L層とFH層の構造は、既に報告がある化学物質の変化と同様に、腐植形成の担い手である土壌動物及び微生物の組成や活性に強く影響すると考えられる。MRIは、森林土壌の構造を非破壊的にin situで観測し、その物理性の変化を解明するための新手法となる可能性がある。