| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-323
釧路湿原は北海道の北東部に広がる日本最大の湿原であり、1980年に日本で初めてラムサール条約に登録された湿原である。近年、開発は規制され保全に力が注がれているが、湿原周辺では農地開発が進んでいる。これに伴って施肥など農地由来の栄養塩が湿原へ大きく流入していると言われている。本研究ではこれらの影響を把握するために、釧路湿原の植生の異なる2地点において2008年11月(冬期)および2009年8月(夏期)に約150cm土壌を回収し、間隙水中のNH4+、NO2-、NO3-濃度および溶存有機態炭素(DOC)濃度の測定を鉛直的に行った。また、溶存有機物質の性質を知るために、三次元励起蛍光スペクトル法によって解析を行った。さらに窒素の除去過程である脱窒についても測定した。
2地点におけるNH4+、DOC濃度は、冬期および夏期とも土壌深度にともなって増加した。両地点のNO3-は、還元的な深い土壌中で蓄積している傾向が観られた。この傾向は、特に冬期によりはっきりと観られた。脱窒活性は、全てにおいて表層で最も高く、下層でほとんど検出されなかった。溶存有機物質の性質を解析したところ、Ex/Em=330/410、330/440付近等にピークが観られたことから、溶存有機物質中に腐植物質が含まれていることが解った。これらのことより、深い土壌中においては脱窒細菌が利用できる有機物が少ないため脱窒が進行し難く、結果としてNO3-が蓄積していたと考えられた。また、冬期においては土壌温度が低下することから、夏期に比べて脱窒は進行せず、より多くのNO3-が蓄積していたと考えられた。今後湿原へ窒素負荷量が増えた場合、土壌中で窒素種の蓄積が起こり、湿原および集水域で富栄養化や酸性化などが引き起こされる可能性がある。