| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
シンポジウム S06-1
一般に、理学においては「真理」あるいはその近似としての「最も確からしい仮説」を明らかにすることが目的とされる。生態学における統計学の利用は主に「観測データに基づく(最も)確からしい仮説の選択」に関わるものである。そのため、ネイマン-ピアソンの仮説検定の枠組みにおいてもAICの利用においても、生態学においては「仮説vs仮説」という土俵の上で「最も確からしい仮説」を明らかにしていくことが一義的な目的とされる。
一方、工学においては「真理」よりも「実利」を得ることが目的とされる。何らかの「実利」を追い求める上では、「最も確からしい仮説」を明らかにすることは一義的には重要ではなく、とにかく「実利」における最終的な利得を最大化することが最重要となる。
生態リスクの解析は「生物の保全・管理」という実利を追求することを目的として行われる。そのため、生態リスクの解析においては、「帰無仮説との優劣をつけること」を一義的な目的としたネイマン-ピアソンの仮説検定の枠組みに本質的な意味は殆どなく、AICなどに基づくモデル選択も単に「最も確からしい仮説」を明らかにした時点で終了してしまうならばその意義は限定的である。生態リスクの解析において必要となるのは、生態系保全・管理に関する意思決定を支援するための解析であり、そのためには様々な不確実性の存在を考慮しながら、様々なシナリオの下で何がどのくらいの尤度で起こりうるかについての予測を分かりやすい形で示す必要がある。
本企画シンポジウムでは、そのような解析に必要とされる技術・アプローチ・哲学について、様々な分野における実践者をお招きして議論を行う。